HAUS | Hokkaido Artists Union studies

ポケット企画と伴走リポート#3

憲法記念日。民主主義ってなんだ?民主主義ってこれだ!への追憶

2023.5.3
text 羊屋白玉、箱崎慈華、戸島由浦

U-29でつながろうぜ!続編

 ゴールデンウィークの5月3日(水)、西区にあるレッドベリースタジオにて、札幌演劇U29 若手のための意見交流会が開催されました。ポケット企画と伴走リポート#2で取り上げた「ここらで交流会しませんか?ーU-29でつながろうぜ!ー」の続編的イベントです。ファシリテーターは三瓶竜大さん(ポケット企画/劇団清水企画)。この会は、彼と佐久間泉真さん(弦巻楽団)の協力により実現しました。

 始まりは11時。事前に参加を表明していた10数名を超えて、16名の演劇人たちが集まりました。誰も嫌な気持ちにならないための、会の趣旨やルールについての説明をしたあと、全員の簡単な自己紹介。U29と言っても、高校生、大学生から、社会人まで、年代も活動団体も多様です。「〇〇って呼んでください。」「〇〇〜!(皆の声)」という風にして知り合っていきました。

話題に挙がった、3つの悩みごとテーマ

 ゲームを交えて緊張をほぐしながら、まず最初に取り組んだのは、演者や技術者、演出家や製作者それぞれにとっての、悩みごとの共有。カラフルな付箋に書き、壁の模造紙にペタペタと貼っていきます。この手法は、いわゆる、壁討論と呼ばれるもの。一通り付箋を貼った後、皆で気になるテーマを選んで話を深めました。特に話したテーマには、以下の内容がありました。

「良い役者になるには。そもそも良い役者ってなんだろう。」

「ハラスメントについて。防ぐ方法、身を守る方法、もし起こってしまった時には。」

「お金について(企画の金銭工面と、生活の金銭工面、それぞれについて。)」

 4-5人ずつのグループで各テーマについて意見や情報の交換をしたあと、話した内容を全体で共有しました。

お昼からの追加テーマ

 そうこうしているうちにあっという間に13時。さすがにお腹が減り、1時間の休憩をすることにしました。ランチを買ってきて会場の玄関前で話しながら食べている様子はまさに「交流会」ならではです。休み時間の間も、壁に貼られた悩みごとについて、解決策を書いたり、改めて見て考えたりする様子がありました。

 再開後、いつの間にか参加者は30名を超える数に。午前中に引き続いて話すうちに、「企画をしてみたい」「(学生で)今後の進路に悩んでいる」という2つの新たな議題が出てきて、それぞれ興味のある人たちで、また集まって話しました。参加者の事例を集めているうちに、「3人いれば演劇は始められるのではないか」「札幌市内の劇場関係者の交代期にあるため、若手の意見を入れていくチャンスがあるのではないか。」というヒントが出てきました。企画した三瓶さんには初めから、札幌市内の劇場について考えるような意図もあったようです。

 そんなこんなで、14時からのはずだったフォーラムシアターは、18時くらいからやることに。進行をあせらず、その場の皆の熱量に沿ってじっくり話す時間を設けて下さったためか、途中で離脱することなく1日集中する人が多くいました。

「困っている人は誰ですか?」皆で解決策を考えるフォーラムシアター

 18時からの「フォーラムシアター」では、まず参加者が4つのグループにわかれ、創作現場で自身が経験した「困った出来事」を共有しました。ここで話し合われた実際の出来事を短い劇に落とし込み、上演を行います。今回上演した3グループはそれぞれ、「舞台の集中稽古」「稽古前の発声練習」「ワークショップ、休憩中の過ごし方」といった出来事を元にしており、演劇に関わる方々の誰しもが経験するシチュエーションが取り上げられていました。

 参加者全員で観劇し、その後「誰が困っていたのか」「問題点は何か」を話し合うのですが、わからないことを出演者へインタビューしていくうち、最初は「演出家のせいで俳優が困っている」という見え方だったことが、「この場にいる全員がそれぞれに困っているのでは」という意見も出てきます。例えば舞台の集中稽古の出来事を上演したグループは、俳優が演出家の漠然とした要求に困るという内容ですが、「具体的な指摘がなく違うパターンを要求される俳優」「うまく言語化できないが時間がなく焦る演出家」「集中稽古が長引くなか待機している別の俳優」皆がそれぞれ嫌な雰囲気を感じ困っている、という状況です。

 誰が困っているのかを皆で話し合ったのち、同じ劇を改めて上演します。参加者は今度はただ観劇するのでなく、途中で自由に劇を止めることができ、そこで出演者と交代して困りごとを解決に導くような演技をします。俳優と交代して一旦持ち帰っての検討を提案する人や、演出家と交代して伝え方を変える人、様々な解決策が提案されました。

 それぞれ実際に起こった出来事はその場ではモヤモヤが残る結果となっていたわけですが、今回のフォーラムシアターによって、起こった出来事を様々な角度から捉え直す機会となったようです。それぞれの役割を演じ合うことで、立場による感じ方の違いが改めて理解できたり、誰かが行動を起こすことで状況が変わる可能性があることを再確認していました。どの立場でも、良い創作環境を目指したいという思いは同じです。普段から演劇の創作に身を置かれている参加者の方々には、コミュニケーションのあり方に対して、非常に実践的な取り組みであると感じました。

ちなみに同日、苗穂では美術分野の交流会が。

 実はこの日、苗穂にある0地点という共同アトリエでは、美術系の学生世代を中心とした交流会が開かれていました。同じ日に札幌市で、違う分野ではありますが、若手交流の会が開催されたことに、奇妙な縁を感じます。0地点の方は、18時ごろから始まり、食べ物を片手に自然発生的な交流が見られました。感染症騒ぎも収束しつつある今、改めてつながろうという意識が強まっているように感じます。

0地点の交流会

 HAUSが関係を持っているアーティストには、今回の参加者内外に、29歳以下の方が何人かいらっしゃいます。これから活動を開拓していくだろうU29に注目です。

 

「フォーラムシアター」とは? ポケット企画の三瓶竜大さんによる解説

 1960〜70年代のアヴァンギャルドな時代が終わって、80年代、90年代になった頃。それまでの反体制的な主張から演劇の手法を社会のために使う応用演劇が作られ始めました。
その基礎を作ったのは、ブラジルのアウグスト・ボアールという演出家です。
 ボアール自身も60〜70年は、「武器を取れ!という主張を劇を通して叫ぶような、反体制的な作品を作ってきましたが、ある農民との会話から、劇団と民衆が一緒に武器を取って戦うわけではない」と、気付かされました。
 そこから貧富の差や貧困層にいる人々の搾取に問題意識を覚え、社会状況を変えるために聴衆を巻き込むような演劇手法を考案しました。搾取されている状況を演劇を通して自覚することで国民の問題意識を高め、社会を変革しようとすることが目的です。

 今回、意見交換会で取り組むフォーラムシアターは、創作活動の中で経験した解決できないような困難な状況を詳細に思い出し、寸劇として再現してみます。そして、客観的に観たり、主観的に演じることで、みんなで解決策を考えてみましょう。

参考書籍 「被抑圧者の演劇」アウグスト・ボアール 晶文社(里見実、佐伯隆幸、三橋修 訳)

<開催概要>
札幌演劇U29 若手のための意見交流会
日時:2023年5月3日(水·祝) 11:00~21:00
会場:レッドベリースタジオ
料金:U29カンパ 30歳以上(19時以降入場可)1000円

ポケット企画
2021年まで三瓶竜大(劇団清水企画)のソロユニットでしたが、団体化が決まり、現在までに三瓶竜大・佐藤智子・吉田侑樹・藤川駿佑・さいとうあすか・泰地輝・森大輝の7人が所属しています。 毎週木曜日の定期稽古のほか、戯曲を読む会、事前批評会、ダンスレッスンなどをメンバー全員で企画、運営。他団体の俳優との勉強会や月に一度の観劇会なども精力的に行っています。“今”しかできない表現を大切に、文化全体の反映を願いながら日々創作活動に励んでいます。

https://pocket-kikaku.com/
https://pocket-kikaku.stage.corich.jp/
U29企画「ポケット企画」のtwItter

0地点
苗穂にある、築96年の古民家を再活用した、共同スタジオ&ギャラリースペース。
twitter @0_chiten_
Instagram @0chiten

《編集後記》 

 2023年憲法記念の日。「札幌の若手のための意見交換会」樹立しました。なぜだかこの会の途中から、SEALD’sのことを思い出していました。確か、SEALD’sの結成も憲法記念日だったな、と。

 2015年、夏の参院選に向けて、安倍政権の憲法観への危機感が発端となり、「民主主義ってなんだ?民主主義ってこれだ!」のシュプレヒコールに包まれた国会前デモが繰り広げられているのを見ていました。そして、時も場所も変わってレッドベリースタジオでは、集団創作の現場での行き詰まりの瞬間を捉えたシーンが組み立てられているのを間近で見ていました。

 彼らは、それを、フォーラムシアターと称し、交わされた困りごとが、その声が、フォーラムシアターのテーマとなり、困りごとが起こす行き詰まりを解決する協働を経て、身体へと地肉化され、それは、ハードコア(ど真ん中)で民主主義な演劇への生成でした。

かつてハウスも、現場で起きたハラスメントの聞き取りから台本へと落とし込み、リーディングをし、上演のための創作環境の改善に向けて、もしくは「気づき」のような体験の共有を目指したことがありました。

「札幌の若手のための意見交換会」は、これからも続いてほしいと思います。でも、あれこれと余計なことをしないように、と、心に留めました。SEALD’sや、この会だけではなく、若い世代の活動に群がる理解あるっぽい大人たちによる擁護とバッシングはもう見たくないし、したくない。と、動揺しながらの帰り道でした。

まずは、この場を借りまして、このレポートに協力してくれたU29アーティストのみなさんにお礼を申し上げます。そして、お疲れ様でした。ハウスは、相変わらずかたわらに座っていようと思います。よろしくです。(羊屋白玉)

SEALD’s シールズ 自由と民主主義のための学生緊急行動

https://www.sealds.com/

書いた人の名前も載せてない朝日新聞の記事

「隠したい」元SEALDsの過去 若者の声を封じるものは